第5/5回“気づいたら体が重い”…それ熱中症かも|夏ランで守るべき3つの習慣
☀️ なぜ夏ランは危険なのか?
夏の夕暮れ、日も落ちてきて涼しくなった頃。「さあ走ろう!」と外に出たあなた。でも、5kmも走らないうちに異変に気づきます。「なんだか、体が重い」「やけに息が上がる」──これ、ただの疲れではないかもしれません。
それ、熱中症のはじまりかもしれません。
夏場は気温だけでなく湿度も高く、身体の熱が逃げにくい状態が続きます。たとえ気温が30℃を切っていたとしても、体内には“熱”がどんどん溜まり、知らず知らずのうちに危険なゾーンに踏み込んでいることがあるのです。
🚨 初期症状を見逃すな!熱中症のサイン
以下のような症状が出たら注意が必要です。
- 「なんか変だな」と思う倦怠感
- 軽い頭痛や吐き気
- 汗を異常にかいている、または逆に汗が出ていない
- 走っていて「フォームがバラバラ」になる
- スピードが維持できず“足が止まりがち”になる
特に「体が重い」という感覚は、脱水と体温上昇が進行しているサイン。そのまま走り続けると、立ち止まることすらできなくなる危険があります。
🧠 体内で起こっている“熱”の異変とは?
熱中症は体の「冷却装置」の機能不全ともいえます。通常、体は汗をかき、蒸発させることで熱を逃がしますが、湿度が高いとこの仕組みが働きにくくなります。
さらに体液が不足(脱水)してくると、血流が悪くなり、脳や内臓、筋肉の冷却が追いつかなくなります。
つまり、
- 筋肉が動きにくくなる
- 判断力が鈍る
- パフォーマンスが急低下する
これらは“メンタル”ではなく、物理的な「体内冷却システムの崩壊」が原因。だからこそ、走りながら気づくことが大切なのです。
🧴 脱水の怖さと、パフォーマンスへの影響
「水を飲めば大丈夫でしょ?」
そう思いがちですが、「のどが渇いた」時点で、すでに遅いのです。
体重の約2%が水分で失われると、運動能力は約10%低下するといわれています。
体重比での水分減少 | 影響 |
---|---|
1% | 運動能力の低下がはじまる |
2% | パフォーマンス10%ダウン、のどの渇き |
4% | 筋出力低下、めまい、疲労感、注意力散漫 |
5%以上 | 危険領域。熱中症リスクが一気に上昇 |

🛟 熱中症が疑われるときの正しい対処法
「ちょっと気持ち悪いな」と思ったとき、すぐにとるべき行動があります。
✅ Step1|すぐに止まる・日陰に移動
走り続けるのは絶対NG。判断力が鈍る前に、木陰や建物の影、風通しの良い場所に避難。
✅ Step2|冷やす
体温を下げるために、首・わき・太ももの付け根などを冷却。
保冷剤がなければ、水道水をタオルに含ませてもOK。
✅ Step3|水分と電解質の補給
水だけでなく、ナトリウム(塩分)入りのドリンクや経口補水液を少量ずつこまめに飲む。
✅ Step4|休憩・同伴者に報告
ひとりで動かず、誰かに連絡を。症状が悪化する前に、病院を検討することも重要。
💡 無理して“その場で回復”しようとせず、潔く中止する勇気を。

🥤 実は“水だけ”じゃ足りない!? 脱水の落とし穴
「水分補給はこまめに」とよく言われますが、“水だけ”を飲んでいれば安心と思っていませんか? 実はこれ、夏場の運動においては危険な落とし穴なんです。
人間の体は、汗をかくと水分と一緒に「塩分(ナトリウム)」も失われます。 特に長時間のランニングやトライアスロン、炎天下での部活動などでは、1時間あたり1リットル近くの汗をかくことも。
ここで「水だけ」を大量に飲み続けると、血液中の塩分濃度が薄まってしまい、低ナトリウム血症を引き起こすリスクがあります。 その結果、次のような症状が現れることも:
- 頭痛や吐き気
- ふらつきや意識のもうろう
- 筋肉のけいれん(いわゆる「こむら返り」)
つまり、「水分補給=水だけ」では足りないのです。
💡ポイント:失った成分を「質」で補う!
汗で失われるのは水分だけでなく、以下のような成分です:
- ナトリウム(塩分)
- カリウム
- マグネシウム
- カルシウム
これらを効率よく補うために、電解質(イオン)入りのドリンクや経口補水液(ORS)を活用しましょう。 特に夏場の運動や屋外作業の際は、以下のようなタイミングと内容が推奨されます。
✅ 脱水対策に有効な補給パターン
タイミング | 補給内容 |
---|---|
運動前 | 塩分入りタブレット+水/イオン飲料200〜500ml |
運動中(30分ごと) | 経口補水液やスポーツドリンク(1回あたり200〜300ml) |
運動後 | 発汗量に応じてイオン飲料+食事からの塩分補給 |
「汗をかいたら水を飲め」は正解ですが、水分の「質」にまで気を配ることが、夏のパフォーマンス維持と熱中症予防のカギになります。 「水だけじゃ足りない」こと、ぜひ覚えておいてください。
🧰 ランナーにおすすめの補給アイテム&装備
熱中症予防は、「走りながら備える」ことがポイントです。
💧 水分・電解質補給
- 経口補水パウダー(OS-1、アクエリアスパウダー等)
- ジェルタイプのエネルギー補給(inゼリー、Mag-on)
- 塩タブレット/塩キャンディ(汗と一緒に失われるナトリウム補給)
🧢 装備品
- 吸汗速乾・通気性の高いウェア(UVカット付きならなお良し)
- メッシュキャップやサンバイザー(頭部の温度を下げる)
- ボトルポーチやハイドレーションバッグ(長距離でも安心)
- 冷却スカーフ・クールタオル(携帯性&再利用可能)
💡 水を「飲む」だけでなく、体を「冷やす」「守る」道具として考えることが大切です。
✅ まとめ|“気づける力”が命と走りを守る
- 夏の運動は、知らぬ間にパフォーマンス低下と命のリスクを引き寄せます。
- 体が重い、暑い、つらい──その感覚に耳を傾けることが最強の防御策。
- 日頃から装備・補給・判断力を磨いて、無理せず、安全に、夏を走りきりましょう。
🧩 ここまでの4回をまとめて振り返り!
夏のスポーツ外的リスクシリーズ|過去記事まとめ
回 | タイトル | 主なテーマ |
---|---|---|
第1回 | 「油断大敵」な夏スポーツ | 総論:外的リスクの種類と特徴 |
第2回 | 虫に刺されて競技中止!? | 虫害・感染リスクと処置 |
第3回 | 日焼けはダメージだった! | 皮膚炎症とパフォーマンス低下 |
第4回 | 転んだのは“油断”だった | 夜間・裂傷・捻挫リスク |
夏場は“気温”だけでなく、“外的環境”によるダメージが積み重なります。 対処方法を学んで夏場のトレーニングを楽しみましょう。
📚 参考文献・出典
- 環境省 熱中症予防情報サイト『熱中症環境保健マニュアル2022』
- American College of Sports Medicine. (2018). Guidelines for Exercise Testing and Prescription.
- Sawka, M. N., et al. (2007). Exercise and fluid replacement. Medicine & Science in Sports & Exercise, 39(2), 377-390.
執筆:だーわー(からだのカレッジ「研究ゼミ」)
運動と体を“対話”するように扱うことを大切にし、日々の気づきを発信中。